トップ > 活動記録 > 催し > 荻野晃也先生講演内容 (2006/12/6修正)

 2006年10月28日開催の「本当に安全? 新東京タワーの電波!」での、荻野先生のご講演内容の概要について、掲載します。

 東京にデジタルタワー(デジタル放送タワー)が出来るということで、どこに出来るか、関心を持っていた。私は、もし造るのなら、東京湾のど真ん中が良いと前から思っていた。さいたまなどに建てるという話もあったが、私の予想していた中では、一番悪い所に出来ることになったというのが率直な意見だ。
 電波タワーとしては、今、携帯タワー(携帯電話の中継基地)が、問題になっている。東京、大阪では、あまり問題にされていないが、九州などでは大問題になっている。携帯タワーの出力は平均100W。今の東京タワーからの地上デジタル放送の出力は10kWという話なので、携帯タワーのざっと100倍だ。携帯電話の高さはせいぜい50m。新東京タワーは高さ610mで、出力が強ければ、電磁波が影響する範囲はものすごく広がるわけで、なぜこのような悪い所に造ることにしたのか。私はその背景はまったく知らないが、とても問題だ。
 携帯タワーからの電波の周波数は800〜2100MHzぐらい、デジタルタワーは400〜800MHzぐらいという違いはあるが、ともにデジタル高周波なので、問題は似ている。
 また、人間の身体の長さとの共鳴を考えると、UHF帯であるデジタルタワーのほうが問題だ。

 太陽に背を向けるヒマワリ

 写真週刊誌「フライデー」2005年8月12日付に、瀬戸タワーを背景にしたヒマワリの写真が載った。瀬戸タワーは名古屋市の東にあるデジタルタワーで、丘陵地帯のど真ん中に建てられ、丘の周りには学校が多い。タワーの周りが殺風景なので、PTAの人たちが瀬戸市からヒマワリの種をもらって昨年春、タワーの北側にまいた。夏になってヒマワリが1000本ぐらい咲いたが、全部北を向いて咲いたという内容だ。私はその話を聞いて、すぐに写真を撮りに行った。見事に北向きに咲いていた。
 一昨年ぐらいから、携帯タワーの周辺で異常な植物が増えているという報道が「週刊金曜日」や「消費者ニュース」に出ていた。最初にそれを見つけたのは、長野県伊那市の住民だ。私もそこへ行って見せてもらった。携帯タワーから200mの場所で、電磁波の強度が一番強いと思われる所で、タンポポなどの異常が増えていた。
 瀬戸タワーのヒマワリが、本当に電磁波の影響なのか確認しようと、そこのヒマワリの種を取っていたので、今年の春、私の家の庭に植えた。もし、遺伝的に北向きに咲くようになっていたのであれば、私の家でも北向きに咲くと思ったからだ。しかし、毎日水をやったが、芽が出なかった。まだ花が咲いていた時に行ったので、ちょっと枯れたようなところの種を取ってきたのだが、花に詳しい人によれば、種を取るのは、もっと枯れてからでないとダメだそうだ。水もやり過ぎたようだ。
 もう一度種を取ろうと、今年の夏に地元に電話を入れたら、「ヒマワリは1本もない」と言われた。タワーとは関係ないが、放射能を少し含んだ「フェロシルト」という埋め戻し材を、そのあたりにたくさん入れていたことがわかって問題になり、北向きのヒマワリもそのせいではないかと住民には説明されていたらしく、フェロシルトを撤去するために、ヒマワリはなくなったそうだ。
 電磁波は第2のアスベスト

 私は1980年代から電磁波問題について指摘してきた。そのころに比べれば、最近は少しはましだが、やはり日本ではほとんど話題になっていない。しかし、米国の住民運動などは「携帯電話と携帯電話タワー−1990年代のアスベストか」というパンフレットを90年ごろに出している。
 英国では、アスベストを原因とした中皮腫による死亡者数が増え始めた80年代に、すべてのアスベストの製造・輸入を停止した。諸外国では、このように早く手を打っていた。日本の厚生省は、知っていたのに手を打たなかった。
 高周波の影響について世界で最初に本を書いた、米国のポール・ブローダーさんという環境ジャーナリストを、私たちは95年に日本へ招待した。ブローダーさんは、アスベスト問題を世界で最初に指摘して大問題にした人でもある。この人に日本中で講演してもらったが、神戸でだけは、アスベストの話をしてもらった。95年は神戸で大震災があり、建材に多用されているアスベストが問題だからだ。しかし、話題にならず、たいへん残念に思った。それから10年たった今、日本でようやくアスベストが大問題になっている。電磁波も10年後になって大問題になるのではと、私はとても心配している。
 ブローダーさんの最初の本「The Zapping of America(アメリカの殺戮)」(1977)は、米国でベストセラーになった。日本では翻訳・出版されていない。この本の副題が「マイクロ波、その死のリスクと隠蔽」。隠蔽しようとしているのは、政府、軍、企業、学者だと書かれている。
 この本が出たころ「モスクワシグナル事件」が起きた。76年にモスクワの米国大使館の道路を隔てた前のビルにアンテナが出来て弱い電磁波を出して以来、大使館の外交官らの体調が悪くなったという、たいへん有名な事件だ。これも、日本ではまったく報道されなかった。
 自然界の電磁波


 電磁波の種類は、周波数が高いほうから、ガンマ線、エックス線、紫外線、可視光線、赤外線、電波がある。
 自然界にものaの通り、いろいろな電磁波がある。その典型は太陽光で、これがないと生物は生きられない。しかし、日本でも全国に100人ぐらいだろうか、太陽光がまったくダメな子どもがいる。いわば、太陽光に対応できた生物が、地球上で生き残ってこられたわけだ。
 現在は人工の電磁波が加わるなどによって、図のbのようになっている。電磁波が急にどんどん増えてきて、生物は本当に耐えれるのかという問題も、深刻に議論されている。
 将来の生物と人類のために環境問題は長い目で見よう、という考え方が広がっている。その中に電磁波問題もあり、特にヨーロッパでは重要な問題に位置づけられている。日本ではまったく注目されていないことが、問題だ。


 低周波の問題

 電波領域の電磁波で問題になっているのが、家庭用の50Hzまたは60Hzの「(極)低周波」と、電子レンジ、携帯電話、デジタル放送などの「高周波」だ。
 今日は時間の都合で、低周波の問題についてはカットするが、本当はカットできない。なぜかと言うと、高周波だけを使っているのは電子レンジだけで、それ以外の高周波は皆、後で触れるように「変調」されているからだ。変調は低周波を混ぜているので、低周波の影響も当然考えなければならない。
 低周波で、一つだけ、一番新しい公的機関の報告書を紹介する。米国カリフォルニア州の電磁場(界)研究プロジェクトが2002年秋に出した最終報告書だ。3人の研究者(責任者)がそれぞれ、60Hzの電磁場と発症との因果関係を100点満点で評価していて、小児白血病は54〜95点、大人の白血病は40〜85点、大人の脳腫瘍は51〜80点などだった。
 電磁波の単位


 高周波電磁波の強度の単位は、二つある。電磁波が空間を飛んでいるときの単位を電力密度と言い、μW/cuで表す。1cuに何μWに相当する電波が通るかという単位だ。
 また、電磁波が人間に当たったときに、人間がどれだけ発熱するかという単位が、エネルギー吸収比(SAR)で、W/kgで表す。全身であれば、1kgあたり0.08W、つまり体重50kgの人には4Wの熱を与えても良いとの考えだ。また頭などの部分の組織1gまたは10gあたりの局所SARという規制値もあり、日本は10gあたりで2W/kgが規制値だ。
 タワーからの電波の規制は電力密度で行い、携帯電話の規制はSARで行うことになっている。

 日本の規制値は熱効果だけ考慮

 電磁波による効果(作用)には、「熱効果」と「非熱効果」の二つがある。熱効果は、電磁波によって発熱する効果だ。非熱効果は、発熱以外に体へ及ぼすいろいろな効果のことだ。
 日本の規制値である2W/kgの電磁波を携帯電話から吸収すると、脳の温度が0.2〜0.3℃上がる。日本の全身規制値は「体の温度が2℃以上の上昇があれば体に異常が出る。1〜2℃の上昇による体への影響は不明。1℃以下の上昇なら影響がない」という大前提で決められた。上昇が2℃程度になる値の、さらに50分の1なら安全だろうとして決められた規制値だ。つまり、電磁波による人体への影響は熱効果だけであり、非熱効果や、長期にわたる影響はない、という大前提で、この規制値が決められた。
 この大前提がおかしい、というのが、電磁波問題の本質だ。熱効果としては大したことがない微弱な電磁波であっても、その非熱効果によって、がんが増えたり、頭痛が起きるという問題が浮上しているのが現状だ。
 規制値というものは一般に、研究が進むとともに、どんどん厳しくなる。たとえば、レントゲンがエックス線を発見したのは1895年で、1990年過ぎに作られた最初の基準値は年間3万ミリシーベルト程度だった。その後、エックス線やガンマ線などの電離電磁波(放射線)の危険性が分かってくるに伴って基準値がどんどん下がり、1990年には年間1ミリシーベルトになり、原発周辺では0.05ミリシーベルトが目標値になっている。実に60万分の1の低下だ。
 電磁波の規制値も、そのうち下がっていくことは必須だ。
 変調


 が、先ほど言った変調だ。
 高周波に、変調という技術でいろいろな情報を載せているのが、携帯電話やテレビ・ラジオの電波の特徴だ。aがAM放送で、振幅を変えることによって、音声という低い周波数の成分を乗せている。bがFM放送で、周波数を変調させることによって、音声などを乗せている。そして、cがパルス変調で、携帯電話やデジタル放送の電波の変調方法だ。
 人間の体や細胞は、あまりにも速いものには反応できないので、パルス変調された電波に対しては、言わば、パルスが一つずつ、ポン、ポンと来たように、体の側は反応する。デジタル放送や携帯は、さらに圧縮という技術を使う。圧縮によって、パルスをもっと強くする。だから、強いパルスが、ポン、ポンと出ることになる。このような電波の強度の測定は、平均値を測定することになってしまっている。しかし、平均値の測定では、間隔が空いていても一つ一つが強いパルス波の危険性が大きいはずなのに、その効果を無視していると言われており、これも大きな問題だ。
 携帯電話やデジタル放送では、さらに位相変調など、いろいろな技術を使っている。
 AM電波は、自然界にもある。FMは、自然界にはない。パルス変調や位相変調となると、自然界の電波から、ますますかけ離れる。自然界にない電磁波をどんどん浴びると、たとえ弱くても生物に影響があるのではないか。そういう研究も、最近になって進められ始めている。


 ポケモン事件

 「変調が悪い」という典型例は、皆さんがよくご存知の「ポケモン事件」だ(1997年12月、テレビアニメ「ポケットモンスター」で、異なる色の光が交互に点滅するシーンが放映され、視ていた子どもに、ひきつけ、失神、めまい、はきけ、不快感、頭痛などの症状が出て、約700人が救急車で搬送された)。このアニメでは、可視光線の点滅を1秒間に15回ほどパカパカとやった。可視光線なんて人間に悪いはずないと思われがちだが、パカパカをやったばかりに、視ていた子どもたちがひっくり返った。
 ポケモン事件は、電磁波問題と共通している。光という電磁波を1秒に15回パカパカやったら子どもがひっくり返ったが、携帯電話の電磁波をパカパカやれば、脳などの細胞からカルシウムが流出する。
 16Hzで変調させた携帯電話の搬送波(915MHz)0.05W/kgを30分間曝露させることにより、人の神経細胞からカルシウムの漏洩が起きたという論文を1984年にダッタらが発表した。日本の規制値2W/kgより、ずっと弱い強度だ。ニワトリなどを対象にした動物実験では、さらに弱い電磁波でカルシウム漏出が起きた。ニワトリだから人間とは違うとNTTは平気で言うが、そうではなくて、まだ人間についての研究が少ないだけだ。
 しかし、このような研究は無視されて、電磁波には「熱効果しかない」「長期影響はない」という前提で、携帯電話が増えてしまった。
 私の家の近くの精神病院の上にも、携帯タワーがあった。携帯電話でノイローゼが増えるという報告がある。この病院は、患者を逃がさないために携帯タワーを持ってきたのだろうかと思ってしまう。
 デジタル波のほうが危険


 携帯電話は、昔はアナログ電波を使っていた。それが、いつの間にかデジタルになった。アナログ電波とデジタル(パルス)電波を比較した論文は、の通りだ。同じ電力密度で比較したときに、どちらがより影響が大きいか、ウサギやマウスなどで実験した結果だ。たぶん、まだ、この表に挙げた研究しかないと思う。ほとんどが、デジタル波の方が影響が大きいという結果だった。
 デジタル波は必ずパルス変調を伴うので、パルス波と考えて良く、アナログ波より弱い電力密度でも雑音などの影響を受けにくく、画質・音質が向上するという利点がある。しかし、危険性はデジタル波の方が大きいおそれがあるのだ。

 増える研究

 世界で最大の医学論文検索システムである「パブメド」で、「Mobile Phone(携帯電話)」をキーワードにして調べたら、全部で651件あった(2006年1月4日に検索)。それを発表年ごとに分類したところ、1990年代前半はほとんどなく、2002年ごろから急増し、05年だけで約200件に達した。だから、最近の研究成果を踏まえて規制値を決めるべきなのに、今の規制値はそうなっていない。80年代までの研究論文を根拠にした1990年の「電気通信技術審議会の答申」に従っているからだ。
 研究が増えている理由は、一つには後で触れるように、WHOが2008年に報告書を出すためもあって、世界的に研究が行われているからだ。
 電磁波による健康障害

 研究論文で報告された電磁波による健康障害の種類は、この表の通り、たくさんある(表は「週刊金曜日ブックレット1・ケータイ天国電磁波地獄」11頁の表に少し追加したものなので、同ブックレット参照)。ただし、これらの健康障害が、全部証明されているわけではない。本当なのかどうか、一生懸命研究されているところだ。その結果、因果関係がないと分かれば、この表から減っていくわけだが、私が見ている限りでは増える一方だ。
 アトピー

 最近分かってきた電磁波による健康障害の一つに、アトピー湿疹がある。2002年に木俣肇医師が発表した研究によると、アトピー湿疹患者26人ずつ2グループに分けて調査した。携帯電話を首にかけてもらって、一つのグループは電源を切って、片方は電源を入れて本人に分からないようコールし続けた。その前に、それぞれのアトピー湿疹患者に、ダニや杉花粉のエキスを塗るなどして蕁麻疹を作った。電源が入っているグループの蕁麻疹は大きくなり、電源が入っていない方は影響がなかった。携帯電話の電磁波でアトピー湿疹が悪化するという結果だった。
 遺伝子発現

 細胞レベルの研究も進められている。昨年8月、米国のシカゴ大学が、培養したヒトの細胞に高周波電磁波を浴びせると「遺伝子発現」が変わるという論文を発表した(FEBS Letter 597(2005) 4829-4836)。これを読んで驚いた。
 われわれの体は、必要な時にホルモン作用などの信号が出て、それに合わせて遺伝子の働きでタンパク質が新しく作られる。これを遺伝子発現と言う。ヒトに奇形が生じるときなどは、遺伝子そのものが変わるのではなく、遺伝子発現が変わる場合が多いようだ。その例が、サリドマイド児だ。
 外部からの影響で遺伝子がタンパク質を作るタイミングがずれるらしいということは、以前から大きな議論になっている。先に触れた瀬戸タワー周辺の北向きヒマワリが、もし遺伝子発現によるものだとすれば、以下のことが考えられる。本来はヒマワリは東南の方、紫外線が強くなる向きに花が向く。遺伝子発現により、紫外線の弱い反対側にある茎の成長が促進されるから、そちらへ向くわけだ。タワーからの電磁波の影響で、逆に南側が伸びるように遺伝子発現が変われば、北を向くことはあり得る。ひょっとしたら遺伝子発現の影響として奇形状態が生じていたのかもしれない。
 電磁波による影響メカニズムの中で、遺伝子発現は、一番可能性の高い理由の一つではないかと言われている問題だ。シカゴ大学の論文は、「ヒトの遺伝子発現を電磁波の非熱メカニズムを経由して変化させることができることを示している」という、かなりショックな論文なのだ。
 遺伝子破壊


 EU7カ国12研究所による共同プロジェクト「REFLEX(レフレックス)」が2004年12月、電磁波によって細胞のDNAが切断されたという研究報告を発表した。日本の新聞は書いておらず、一般向けでは「テーミス」という雑誌だけが書いた。日本の規制値は2W/kgだが、0.3W/kgでも影響が出ていた。
 レフレックスに参加したウイーン大学の論文によると、1800MHzの高周波をヒト繊維芽細胞に照射して細胞のDNAの切断を調べたところ、4時間の照射では影響が見られなかったが、16時間、24時間では、ともに影響があった。しかも、連続波に比べて、間欠波(5分間オン、10分間オフの繰り返し)や変調波のほうが影響が大きかった(。Mutation Research: 583(2005) 178-183)。


 動物実験など

 携帯電話の電磁波を浴びていると、ニワトリの卵の半分が孵化しないという論文が三つある。日本の論文が一番古く、フランスから二つ論文が出ている。
 ショウジョウバエに携帯電話の電磁波を与えていると、産卵能力が落ちるという論文を2004年、パナゴプウロスが発表した。さなぎの平均数を数えて調べた。非変調電磁波でもさなぎの数が減ったが、変調電磁波だと、さらに減った。
 スペインの2005年の論文では、シュバシコウというコウノトリの仲間の鳥の巣を調べた。携帯タワーの周辺200m以内の巣でヒナがいなかったのが40%もあった。300m以上離れた巣では、ヒナがいないのは3.3%、つまり30の巣のうち一つだけだった(Electromagnetic Biology and Medicine,24:109-119,2005)。人間の場合はどうなのだろうか。
 タワー周辺の疫学調査


 携帯タワーやデジタル放送タワーの周辺の疫学研究は、まだ多くなく、にあるだけだ。日本の論文は一つもない。東京タワーとか、都会のど真ん中にタワーを多く造っている国は日本ぐらいなので、ぜひやってほしいと思うのだが。
 表を見る限りでは、やはり「どうもやばい」と思うのが普通ではないだろうか。でも日本では、それがなかなか通らない。


 タワー周辺の健康影響


 携帯タワー周辺での頭痛や睡眠障害などを調べた論文は6件ぐらいある。たとえば2003年のフランスのサンティニ論文の結論には、「タワーは民家から300mよりも近づけて建てるべきではない」と書いてある(Electromagnetic Biology and Medicine, 22:41〜49,2003)。携帯タワーで300mだったら、デジタル放送タワーだったら何kmぐらいになるのか、ちょっと分からないが、だから私は東京湾に作れと言っているわけだ。
 は、ドイツの医者グループが最近発表した論文で、携帯タワー周辺の症状をいろいろ調べた。電力密度が0.001μw/cu未満では症状が何もない人が70%だったが、それ以上になると「症状あり」が上回るという結果だった。
 各国の研究所、研究者が提案している電力密度の基準値の中には、かなり厳しい数値もある。たとえば、ドイツのマエスは1998年、0.00002μw/cuを提案している。
 既に、オーストリアのザルツブルグは、室内で0.0001μw/cu以下を、2002年に勧告している。室外は0.001μw/cuだ。この値を支持する論文が数件ある。


 新東京タワー周辺の電磁波

 瀬戸のデジタルタワーからの電磁波は、2kmぐらいのところで0.01μw/cuだが、新東京タワーの場合は、どうなるか。
 東京タワーからの地上デジタル放送の出力は、今は10kWだというが、たぶん私の推定では、新東京タワーから5〜10kmぐらいまでは、携帯タワーの場合で一番強い電磁波と同等の強さになる可能性がある。だから、新東京タワーのすぐ近くの方々だけでなく、周辺の方々も、携帯タワーが自宅のすぐ横に出来ることとほとんど一緒だと思ってもらった方が良いのではないかと思う。
 その上、まだチャンネルがいっぱい空いている。将来的にはいろいろな目的でバンバン使うようになって、出力はもっと大きくなると私は予測している。
 瀬戸タワーの出力は3kWというので、新東京タワーで将来、たとえば30倍になるとすれば、地上では0.1μw/cuを超えることになるのではないか。
 WHOの動き

 今、世界保健機関(WHO)は、電磁波のクライテリア(基準)作りをやっている。1996年から始め、今年秋に低周波について、2008年に高周波について、それぞれクライテリアを出す予定だったが、低周波は2007年春に延びた。
 WHOが以前に高周波のクライテリアを出したのは1993年だ。いろいろな論文が含まれているので、それを集計してみたら、「影響あり」が「影響なし」より多かった。もちろんこの時は、どちらかというと、強い電磁波による研究が多かった。弱い電磁波についての研究は大変だし、まず強い方の影響から研究を始めたからだ。
 WHOは今年5月、携帯タワーについて「そんなに危険とは言えないよ」というファクトシートを出した。私だって携帯タワーが出来たら、みんなバタバタとがんで死んでいくとは全然言っていない。しかし、そのファクトシートも、微弱であっても長期間被曝することによる影響はまだ分からないので研究を続けるべきだ、と言っている。
 海外では「市民権」


 世界的には、電磁波が悪いのではないかという認識は、広まってきている。
 サンケイスポーツ2003年12月28日付によると、英国では「有害なのは明らか」として、住民による携帯基地局の破壊が続発しているという。
 ヨーロッパでは、学校の近くに携帯タワーを建てるのはやめようという動きもある。ところが日本は、そうではない。私はこのあいだ京都大学を定年になったが、先日行ったら、大学内の建物の上に携帯のアンテナが建っていた。困ったことだ。
 スペインでは「76の学校が、アンテナと闘っている」というウェブサイトがあった。
 2002年のオランダの報告で、公害による集団的健康障害の訴えがあったときの汚染源についての統計をみると、多い順に土壌汚染、大気汚染、室内環境汚染、電磁波、水質汚染、低周波音公害だった()。電磁波問題が市民権を得ていることがわかる。日本ではまだ市民権がないし、訴えがあったとしても無視されるか、「その他」に分類されているのではないか。

Environmentally-Related Disease Clusters in The Netherlands (R.van Poll, M.Drijver)
 報道の偏り


 読売新聞の今年3月11日付夕刊に、「携帯電話の電波、人体に影響は? 出力低く、厳格な安全基準」という記事が出た。「英国研究チームの今年1月の発表によると、脳腫瘍の一種である神経膠腫の患者らに面接調査を行った結果、携帯の使用期間や回数と病気発症との間に関連は認められなかった」と書いてある。私は、この記事を読んで愕然とした。
 今年に入って、研究結果が五つ出ている。五つのうち三つは、影響があるという論文だ。残りの二つは、読売新聞に取り上げられた論文と、今年8月に出た日本の論文だ。この日本の論文は、聴神経腫瘍だけを調べた。このような、影響がないという論文が出れば、総務省あたりが大喜びで記者会見をして発表するかと思ったら、全然しないのが不思議だ。この論文はあんまり信用できないということなのか。でも、これはWHOの配下でやっている「インターフォン計画」の中の研究なのだが。
 今年2月にスウェーデンのハーデルが発表した論文によると、携帯電話を使用している人の悪性脳腫瘍増加率が、アナログで2.6倍、デジタルで1.9倍だった。特に10年以上使っている人は、それぞれ3.5倍、3.6倍。すべて統計的に有意だった。
 読売新聞は、影響がないという論文だけを取り上げたというわけだ。
 その一方で、日本でも、こういう報道も少しだけ出てきた。毎日新聞2005年3月27日付「第3世代携帯、基地局周辺で『健康被害』 住民苦情、トラブル200件」。この記事には「エンジンのような低音が頭の中で24時間響き、まともに眠れない」という、被害者の声が書かれている。寝ている時は脳の活動が落ちているのだから、電磁波自体が弱くても、影響は受けやすいだろう。携帯電話は寝ている時にはかけないから、24時間電磁波を出すタワーの影響は、やはり深刻だ。もちろん、携帯電話を電源を入れたまま頭のところに置いて寝るのは、やめるべき。電源が入っている限りは、携帯タワーとの間で電波のやりとりをしているわけだから。

 携帯はなるべく使わないで

 携帯電話がこんなに増えるとは思わなかった。1台あたりの携帯電話でもうけが多いのは、アフリカ諸国だ。有線電話が普及していないので、1台の携帯をみんなで使い合っているからだ。中国も同様で、世界で一番台数を持っているのは中国だ。世界の人口五十数億に対して、携帯電話は20億台を超えた。
 日本での普及率は、9月末で78%。もう飽和状態かと思ったら、メーカーは「キッズ携帯」を子どもに使わせようと必死になっている。子どもが誘拐されたという事件が一つあれば、携帯の売れ行きが違うというわけだ。しかし、世界では、その逆だ。子どもに使わせるのをやめようという動きが出ている。
 私は携帯電話をやめろと言ってきた。私も使っていない。しかし、これだけ増えたら、やめろとは、もう言えない。「出来るだけ使うのはやめてください」と言うことしか出来ないのが悲しい。
 昨年、ウイーンの医師団の報告書を読んでいたら「携帯電話を使うのは控えましょう」と書かれていた。なぜかと言えば、「あなたが使えば、携帯タワーからの電磁波が強くなります。そうすると、その横に子どもがいるかもしれない」との理由だった。そういう勧告が出ていることを知ってほしい。
 男子死産の増加


 電力施設など、電磁波に被曝する環境で働いている人に生まれる子供の男女比についての論文が11件もある。男児が多いという論文は、私が知っている限り一つだけで、あとは女児が多い。だいたい生物は、種として衰退に向かうと本能的に女児を増やす。たとえば、飢餓状態になれば女の子が増えていく。
 日本で死産した子どもの性比を調べた人がいて、女子死産100人に対する男子死産の割合が1970年ごろから急激に増えていて、最近では220人を超えた。妊娠初期の12〜15週の死産に限定すると、男子は女子の10倍にも達していた(朝日新聞2004年7月1日付)。 西ドイツについて同じことを調べたら、日本と全然違って、110〜120人程度で推移していた()。
 携帯電話は1990年ごろからの普及なので、増えた原因は食べ物や農薬かもしれないし、分からない。家電製品が普及した時期なので、このことを見つけた先生は、電磁波原因説だ。私は電磁波原因説ではないのだが、環境要因であることは、間違いないようだ。


 予防原則

 デジタルタワーの危険性が「100%確立している」とは、私も言わない。ただし、「間違いなく安全だ」と思われていた電磁波は、実はそうではなかったということだけは確かだ。今、電磁波ほど混迷している問題はない。人間が知りうることには限りがある。科学者は、すべてをわかっているわけではない。安全だと言い切れない、危険性があり得るときは、予防的な立場で対処すべき。予防原則で厳しい基準を作る国が増えている。
 日本は送電線も家の上を平気で通しているし、携帯タワーも平気で家の密集地に造る。デジタルタワーも人の多い所に平気で造る。そういうことを変えなければ、だめだ。東京では、そういう運動は大変少ない。しかし、自分の子ども、孫のことを考えれば、取り返しがつかなくなるかもしれないということを考えて、新東京タワーをどうしても造らなければならないのだとしたら、今から間に合うのかどうか知りませんが、ぜひ皆さんがんばって、東京湾のど真ん中に建てるのでいいじゃないですか。
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