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 「都民の意見を聴く会」公述書


新東京タワー事業(業平橋押上地区開発事業)について都条例に基づく環境影響評価(環境アセスメント)手続きの一環として、「都民の意見を聴く会」が2008年2月1日、墨田区のすみだ女性センターで開かれました。事業者による「環境影響評価書案」、および(同評価書案に対する意見書への)「見解書」について、意見を述べるというものです。都の募集に対して応募した5名が公述を行い、当会からは共同代表の大久保、網代がそれぞれ公述しました。

以下に、網代による公述の内容を示します(実際の公述の場では、しゃべることしかできませんので、グラフ、表、出典については示していません)。

大久保による公述の内容は、こちらをご覧ください。


1. 電磁波による健康影響
 本事業の核となるのは、地上波デジタルテレビ放送(地デジ)の電波を送信すると説明されている新東京タワーの建設です。本環境影響評価書案は、新東京タワーからの電波送信によってもたらされる、周辺地域における電磁波上昇レベルの予測値を示し、それらは国の「電波防護指針」を下回っているため、「地域住民の日常生活に影響を及ぼすことはないものと考える」と予測しています(365頁)。
 しかし、電波防護指針値を下回る「弱い」電磁波の長期曝露と健康影響との因果関係は証明されていないものの、その疑いを示すさまざまな研究報告があり、「影響を及ぼすことはない」と言うことは適切ではありません。
 たとえば、オーストラリアのホッキングらは、シドニー郊外にある三つのテレビ・ラジオ放送タワー(実効輻射電力計900kW以上。高さ平均130m)と小児がんとの関係を調べ、1996年に報告しました。タワーから近い3自治体は、その周囲の6自治体と比べて、白血病の発症率が1.58倍(95%信頼区間1.07〜2.34)、死亡率は2.32倍(同1.35〜4.01)で、統計学的有意に増加しました(1)
 また、イギリスのドルクは、バーミンガム市の北のはずれに建つサットンコールドフィールドテレビ・FMラジオ放送タワー(実効輻射電力計4750kW。高さ240m)の成人白血病について調査しました。白血病発症率の国家統計から求めた予想値と実際の発症者数とを比較した結果、タワーから2km以内では1.83倍(95%信頼区間1.22〜2.74)でした(2)。
 「弱い」電磁波の長期曝露による健康影響の疑いが否定し得ないことから、いくつかの海外の国や自治体は、予防原則の考え方などから、日本の電波防護指針に比べて格段に厳しい基準値などを設けています。たとえば、イタリア、中国では、日本の0.028倍程度(539MHzの場合)という低い数値で規制しています(3)。
 本評価書案「資料編」347〜355頁に示された予測値は、新東京タワーから1000m以内では、ほとんどの地点でこの0.028倍を上回っており、1000mを超えても、なおしばらく上回りそうだということが分かります(4)。つまり、本評価書案が示した数値は、イタリアや中国などでは許可されない数値なのです。
 本見解書69頁には「電波防護指針に示される基準値に満たない電波が健康に悪影響を及ぼす証拠は見つかっておらず、WHO(世界保健機関)をはじめとした世界各国は安全上の問題はないという認識を示しています」と書かれています。
 しかし、WHOの国際電磁界プロジェクトは、高周波電磁波(新タワーからの電波は高周波です)についての環境保健基準を来年以降発表する予定です。つまりWHOは高周波の健康影響について現在検討中であり、安全であるとの結論は出していません。
 また「世界各国は安全上の問題はないという認識を示している」という点についても、既に見たとおり、健康影響が否定しきれないことから対策を講じている国もあります。
 アメリカ科学アカデミーは高周波電磁波について、これまでは大人を対象に短期的な影響を調べた研究が多いとして、成長期からこうした機器の利用を始める現代の子どもへの長期的な影響や、機器の多様化で複数の電磁波を浴びた際の副作用を重点的に検証する必要があるとする報告書をまとめたと、最近も報道されました(5)。
 すなわち、本見解書における「WHOをはじめとした世界各国は安全上の問題はないという認識を示しています」との記述は、事実ではありません。
 また、本見解書は、「総務省は平成19年(略)、現時点では電波防護指針を超えない強さの電波により非熱効果を含めて健康に悪影響を及ぼすという確固たる証拠は認められない、また、現行の電波防護指針値の根拠について大きな問題はない旨の報告を発表しています」と書いています(69頁)。
 しかし、この報告をまとめた総務省の委員会は、委員の構成が中立・公平でないことが批判され、研究内容の問題点も指摘されています6)。住民の健康を守るという立場からは、電磁波の安全性を論じる根拠としてこの報告書を採用すべきではありません。
 また、新東京タワーは地デジの電波塔だと説明されていますが、本評価書案によると、地デジ以外にラジオ、MCA、携帯電話の電波も送信することになっています。全国各地で、携帯電話事業者が住民に十分な説明をしないまま携帯電話基地局を設置し、住民と紛争になるケースが多発しています。この新東京タワーにおいても、地デジ以外の電波送信について何も説明されておらず、事業者として誠実な態度とは言えません。新東京タワーが建設されれば、事業者が収入増加のために住民の不安を無視して送信する電波を増やしていき、健康リスクが増大し続ける可能性が大きいものと考えられます。
 電磁波の問題については、本見解書案69〜73頁に公述人の意見が掲載されていますので、あわせてご覧ください。なお、このうち72頁で、質問趣意書を出した参議院議員の名前について「個人情報保護の観点から」伏せ字とされていますが、この議員は紙智子氏です。公人による公務について氏名を伏せることと、個人情報保護とは、まったく無関係であり、事業者による個人情報保護に係る取り組みへの怠慢による無知を示している可能性があります。また、結果として環境影響評価手続を妨害するものです。

(1) Bruce Hocking et al, Cancer incidence and mortality and proximity to TV towers, Medical Journal of Australia v.165 n.11/12, 1996
(2) Helen Dolk et al, Cancer Incidence near Radio and Television Transmitters in Great Britain I. Sutton Coldfield Transmitter, American Journal of Epidemiology v.145 n.1, 1997
(3) 各国・自治体の基準値等と日本との比較は以下の通り。ただし539MHz(評価書案に記載された地デジ電波の周波数のうち中央の周波数)の場合

  電力束密度 (μW/cu)
日本、米国 359.4
国際基準値、韓国、豪州、ドイツ、フランス 269.5 0.75
ベルギー 67.4 0.19
イタリア、中国、ロシア、ポーランド 10 0.028
スイス 2.4 0.007
フランス・パリ市 1.06(携帯基地局について) 0.003
オーストリア・ザルツブルク州 0.001(携帯基地局について。屋外の場合) 0.000002
基準値等は、総務省「諸外国における電波防護規制等に関する調査報告書」 (2004年3月)に基づく
 
(4) 評価書案資料編が示した数値をグラフ化すると以下の通りになる
      新東京タワーからの距離(m)
(電磁波の強さは「環境影響評価書案 業平橋押上地区開発事業 −資料編−」に基づく)
 
(5)共同通信報道、2008年1月18日
(6) 「スカパー巨大アンテナに反対する住民の会」による訴訟の「第3準備書面」、2007年12月10日


2. 電磁干渉
 新東京タワーからの電磁波により発生が心配される問題は、人体への健康影響だけではありません。電気機器を誤作動させる「電磁干渉」の問題があります。
 現在の東京タワーからの電磁波についても、テレビカメラに影響して撮影に支障が出るなど、機器への影響が「多数報告されている」と、専門誌の記事は述べています(1)。
 新東京タワー建設の「最終候補地」が、本評価書案の対象である「業平橋押上地区」に決まる以前の2001年、秋葉原の都有地を含む地区に新タワーを建設する構想が浮上しました。しかし、東京都は新タワー建設に協力することは困難との結論を出し、秋葉原タワー構想は潰えました。東京都はその理由の一つとして、唐津一・東海大学教授(当時)が指摘した電磁干渉の恐れを挙げていました(2)。
 唐津教授は、「秋葉原の頭の上で、デジタル放送の電波をばらまかれると、その真下では感度のよい受信機や各種の精密機器、特に微妙な測定器に妨害が入って使えなくなることが目に見えるのである。」「NHKでキチンとデジタル電波を出したときのシミュレーションをして測定してもらったら、やはり高感度の受信機ではノイズで全く受信不能という場合がでてきた」と業界紙で報告、指摘しています(3)。
 この秋葉原タワーと目的や規模が同じ新東京タワーも、同様の問題が懸念されます。この地域は「ものづくりの街」であり、中小企業を中心に多数の工場等が立地しています。これらで使用されている機器等に影響があれば、住民の生活に重大な影響を及ぼします。
 唐津教授が報告した実験の経緯および結果について、筆者はNHKに対して情報開示を請求しました。これに対してNHKは「開示した場合、(略)民放五社およびNHKの今後の事業活動に支障を及ぼすおそれがある」として、昨年(2007年)3月に不開示決定をしました(4)。
 また、本見解書は、「在京放送事業者6社により行われた秋葉原タワー関連の実験結果からは、通常(定格)の送信出力による送信電波では電子機器への影響はないとのことです」(68頁)と書いてあります。唐津教授による前述の記事とは正反対の内容であり、いったいどちらが本当なのでしょうか。NHKなどによる実験の経過および結果のすべてを住民に公表して説明すべきです。
 電磁干渉について、公述人の意見書は、本見解書の68頁に掲載されていますので、あわせてご覧ください。なお、ここでも唐津教授の氏名が伏せ字とされています。繰り返しになりますが、誠に不適切な対応であると言うべきです。

(1) 牧野鉄雄ら「ヘリコプター搭載カメラに対する東京タワー送信電波の影響について」『放送技術』1999年6月
(2) 東京都産業労働局「地上テレビジョン放送のデジタル化に伴うテレビ塔について」2001年5月15日
(3) 唐津一「ブロードバンド事業と"秋葉原アンテナ"計画」『電波新聞』2001年5月15日
(4)公述人はこの決定を不服として、NHKの制度に基づき「再検討の求め」を行い、「NHK情報公開・個人情報保護審議委員会」に5月24日に諮問された。しかし、NHKのウェブサイト「情報公開の実施状況」http://www.nhk.or.jp/koukai/6condition/jisshi_jyoukyou.htmlによると、いまだ審議中とのことで結論は出ていない。審議に8カ月以上もかかっていることについて、公述人には何の説明や報告もない

3.圧迫感
 本評価書案は、「圧迫感の指標のひとつである形態率は、『建築物の水平面立体角投射率』と定義され、具体的には魚眼レンズ(正射影)で天空写真を撮影したときの写真内に占める面積比として表される。」として、各評価地点におけるこの面積比が最大9.7%であるとして、「圧迫感はない状況と考える。」と予測しています(299頁)。
 しかし、新東京タワーは、高さ約610mという通常建築物では考えられない高さである一方で、タワーであるため横幅は狭く、しかも高くなるほど幅が細くなっていくという特殊な形態であることから、建築物の規模の大きさの割には、魚眼レンズで撮影した写真内の面積比が大きな数値とならないことが特徴です。
 たとえ面積比の数値が小さくても、高さ約610mという国内で類例のない高さのタワーが、低層住宅も多いこの地域の住民に与える圧迫感は小さくないはずです。
 すなわち、超高層タワーという特殊な建築物については、通常の建築物で用いられる評価手法によっては、その圧迫感につき、正確な評価が出来ないというべきです。


4.結論
 他にも申し上げたいことはございますが、時間の都合上、結論に移ります。
 以上述べたように、本評価書案による電磁波の予測値によれば、本事業の実施によって周辺住民に健康影響を及ぼす可能性が否定できません。
 また、電磁波による電磁干渉についての評価が欠落しています。
 圧迫感については、評価手法が不適切です。
 したがって、現時点において、本事業の実施について是認されるべきではありません。
 以上の問題があるにも関わらずあえて建設をするのであれば、新タワー稼働前後に周辺住民の健康調査を実施する必要があります。
 本見解書で事業者は「定期的に電波環境を測定」すると述べています(79頁)。しかし、測定結果が電波防護指針を下回っていても、住民は安心できません。地デジ用タワーの先行例である愛知県瀬戸市においても測定が実施されていますが、地元市議会議員は「国の基準値が高すぎるので上回るはずはなく、タワーのすぐ近くにある学校の子どもたちの健康について追跡調査などはしていないので、タワーの電磁波による影響が本当にないのかどうかは分かりません。電磁波について市民の不安が解消されたわけではな」いと話しています(1)。
 電磁波との関連が疑われているがんや電磁波過敏症などの発症率が増えているかどうかは、調査を行わなければ分かりません。調査の結果、影響がないことが分かれば、住民は「安心」というかけがえのない成果を手にすることができます。調査の手法等は住民も参加した中立かつ公平な場で決定されるべきであり、費用は事業者が主として負担すべきと考えます。
 公述人の母親は、化学物質過敏症という難病に苦しみました。化学物質過敏症は、農薬、タバコの煙、塗料、建材など、身のまわりに存在するさまざまな化学物質に反応してさまざまな症状が出るうえ、即効的な治療方法がなく、数か月から数年以上も苦しむという、たいへんつらい病気です。化学物質過敏症に似た病気に、携帯電話や蛍光灯などからの電磁波に苦しむ電磁波過敏症という病気もあります。現代社会において、私たちの身のまわりには極めて多くの化学物質、電磁波などの環境汚染因子が存在し、私たちはそれらの複合影響によるストレスを常に受けています。これらのストレスの総量がその個人の適応能力を超えてしまうと過敏症が発症するとされています(2)。仮に新タワーからの電磁波そのものの影響が小さい場合でも、他の環境汚染要因との複合影響が懸念されます。私たちは、便利さ、快適さを追い求めて、化学物質や電磁波を使い放題にするのではなく、不要なもの、なくても良いものは削減する努力を常にし続けなければ、子どもたちに安全な未来を保証することはできないのです。
 この意味でも、本来なくてもよい新東京タワーを建てるべきではありません。地デジ電波送信は東京タワーでも問題ないことは総務省も認めています(3)。さらに言えば、無線よりも有線放送のほうがデジタル化にも即しています。
 公述人は祖父母が住み、母が生まれ育ち、自分が生まれた墨田区に、今後も住み続けたいと思っています。しかし、公述人には幼い子どもがおり、新タワーが出来た場合にこの地に住み続けて良いものかどうか、大変迷っていることを申し添えて、本公述を締めくくらせていただきます。

以上

(1) 網代太郎『新東京タワー』106頁、緑風出版、2007年
(2) 宮田幹夫・北里大学名誉教授『化学物質過敏症』19〜20頁、保健同人社、2001年
(3) たとえば「姿見せるか第二東京タワー」『日刊工業新聞』2004年8月4日など。総務省担当者は公述人に対しても「地デジは東京タワーで問題ない」旨、明言している

 
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